成年後見制度が変わります|家族信託との使い分けはどう変わるのか

「後見はやめたほうがいい」と言われてきた理由が、変わります

親の認知症に備えるご相談で、必ず出てくるお話があります。

「成年後見は一度始めたらやめられないと聞きました」
「知らない専門家が後見人になって、報酬をずっと払い続けることになると聞きました」

このお話は、現在の制度については、おおむねそのとおりです。 当センターでも、そのことを含めてご説明したうえで、家族信託をご提案してきました。

ところが、2026年(令和8年)6月17日、成年後見制度を見直す法律が国会で成立しました(令和8年法律第45号。6月24日公布)。ここで見直される内容が、まさに上の2点にあたります。

ただし、まだ施行されていません。 いつから新しい制度になるかは、これから政令で決められます。

内容 施行の時期
成年後見制度の見直し 公布から2年6か月を超えない範囲で、政令で定める日

つまり、今日ご相談いただく案件には、まだ現在の制度が適用されます。 けれども、これから10年20年先を見据えて対策を組む方にとっては、知っておいたほうがよい変化です。

このページでは、何が変わり、そのうえで家族信託をどう位置づけるかを整理します。

変わること① 「後見」「保佐」がなくなり、「補助」に一元化されます

現在の成年後見制度は、判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3つに分かれています。判断能力を欠く常況にあると認定されると後見しか選べず、後見人が財産全体について包括的な権限を持つことになります。

改正後は、この3類型が「補助」に一元化されます(民法7条・9条・11条)。

そのうえで、必要な行為ごとに個別に、補助人に代理権を与えるかどうかを家庭裁判所が決めます。

「実家を売るために後見人が必要なだけなのに、預金も年金も生活のすべてを管理されることになる」という状況が避けられるようになります。

なお、判断能力を欠く常況にある場合には、例外として、法定の重要な財産行為をいずれも取り消せる仕組み(特定補助の仕組み)を選ぶこともできます(民法10条)。

変わること② 必要がなくなれば、終了できるようになります

ここが最も大きな変化です。

現在は、利用のきっかけになった手続き(たとえば遺産分割や自宅の売却)が終わっても、判断能力が回復しない限り、制度の利用をやめることができません。 そのため報酬もご本人が亡くなるまで発生し続けます。

改正後は、こうなります。

判断能力が回復していない場合でも、制度を利用する必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、申立て又は職権により、制度の利用を終了することができる(民法12条)

あわせて、補助人には家庭裁判所への年1回の状況報告が義務づけられ、その報告の際に必要がなくなったと認められれば、職権で終了させることもできます。

「○年ごとに更新する」という期間制ではありません。 検討の過程では議論されましたが、成立した法律は「必要がなくなったら終了できる」という仕組みです。

変わること③ 本人の意見が重くなり、交代もしやすくなります

内容 条文
家庭裁判所が補助人を選ぶ際に考慮する要素の冒頭に「本人の意見」を置く(現行法では最後に規定) 民法876条の2
解任事由に「本人の利益のために特に必要があるとき」を追加。横領などの不正がなくても、面談をしないなど本人が適切な保護を受けられないときは交代させられる 民法876条の5
補助人が職務を行う際、本人に情報を提供し、本人から話を聴くなどして意向を把握する義務を明確化 民法876条の11
報酬を決める際、補助人が行った事務の内容が考慮要素であることを明確化 民法876条の19
死後事務の権限を拡充(火葬・埋葬に関する契約、未払金の支払など) 民法876条の26

任意後見についても、監督人を選任せずに家庭裁判所が直接監督できる場合を設けるなどの見直しが行われます。

では、家族信託は要らなくなるのでしょうか

いいえ。ただし、選ぶ理由は変わります。

これまで家族信託が選ばれてきた理由のうち、「後見はやめられないから」という理由は、改正後は弱くなります。 そこは正直にお伝えします。

一方で、改正後も変わらない違いが残ります。 整理すると次のとおりです。

成年後見(改正後の補助) 家族信託
使い始める時期 判断能力が不十分になってから 元気なうちに契約する
誰が管理するか 家庭裁判所が選ぶ(本人の意見は重視されるが、希望どおりとは限らない) 契約で決めた家族が管理する
管理の目的 本人の財産を保全すること 契約で定めた目的の範囲で、運用・処分もできる
積極的な運用・生前贈与・相続対策 できない 契約に定めればできる
裁判所の関与 年1回の状況報告。重要な処分には裁判所の関与 なし(信託監督人を置くかは任意)
費用の発生の仕方 補助人の報酬が継続的に発生(必要がなくなれば終了できる) 契約時にまとまった費用。以後は原則として発生しない
身上保護(施設の入所契約など) できる できない
対象になる財産 本人の財産全体 信託した財産だけ
本人の死亡後の承継先の指定 できない できる(遺言の代わりになる)
さらに次の世代への承継の指定 できない できる(受益者連続型)

改正後も、家族信託が向いている場面

上の表のうち、改正では変わらない部分にあたるのが次の3つです。

① 資産を「守る」だけでなく「動かす」必要があるとき

成年後見は、改正後も本人の財産を保全する制度です。アパートの建替え、大規模修繕、収益不動産の買い替え、相続税対策としての資産の組み替え——こうした積極的な判断は、補助人にはできません。

収益不動産をお持ちの方には、改正後も家族信託が有力な選択肢です。

② 誰に任せるかを、自分で決めておきたいとき

改正で「本人の意見」の位置づけは重くなりますが、選ぶのは家庭裁判所です。「長女に任せたい」というご希望が必ず通るわけではありません。

家族信託は契約ですから、受託者はご自身で決められます。

③ 二次相続・三次相続まで見据えたいとき

「自分の次は妻に、妻の次は甥に」——このように世代を超えて承継先を指定できるのは、遺言にも成年後見にもない、家族信託だけの機能です(受益者連続型信託)。改正はこの点に何ら影響しません。

逆に、家族信託だけでは足りない場面

家族信託は万能ではありません。 当センターでは、次の場合には家族信託を単独でお勧めしません。

  • 施設の入所契約や医療同意など、身上保護が中心の課題であるとき
    家族信託でできるのは信託した財産の管理だけです。施設との契約はできません。任意後見契約との併用をご提案します。
  • 信託しない財産(年金の受取口座など)の管理が問題になるとき
    年金は受託者の口座では受け取れません。ここも任意後見契約の出番です。
  • 判断能力が既に低下しているとき
    信託契約は契約ですから、契約する力が残っていることが前提です。「元気なうちにしかできない」のは改正後も変わりません。
  • お子さんの間で意見が分かれているとき
    受託者に権限が集中する仕組みですので、あらかじめ合意が取れていないと、後で揉める原因になります。

当センターでは、家族信託と任意後見契約と遺言を組み合わせてご提案することが多くあります。 どれか1つで済むことは、実はそれほど多くありません。

「制度が変わるなら、待ったほうがよいのでしょうか」

多くの場合、待つ必要はありません。 理由は3つあります。

理由1:施行日がまだ決まっていません

公布から2年6か月を超えない範囲で政令で定める、とされています。その間にご本人の判断能力が変わってしまう可能性のほうが、現実的なリスクです。

理由2:家族信託は、改正の影響を直接には受けません

今回の改正は民法の成年後見に関する部分の見直しであり、信託法は改正されていません。 今日結んだ信託契約が、施行によって無効になったり内容が変わったりすることはありません。

理由3:改正は、家族信託を組んだ方にとってもよい変化です

家族信託を組んでも、身上保護は残ります。そこを任意後見契約でカバーし、万一のときに使う法定後見も、以前より使いやすい制度になる——という位置づけです。

ただし、待つべき場合もあります。 ご本人の財産がごく限られていて、目的が「遺産分割のために一時的に代理人が要る」ことだけであれば、改正後の補助を使うほうが費用も手間も少なくて済む可能性があります。 そうした場合は、当センターでも家族信託をお勧めしません。

まずは、現状をお聞かせください

ここまで読まれて、「うちの場合はどちらだろう」と思われたのではないでしょうか。

それは、ご家族の構成・財産の内容・ご本人のご意向によって変わります。 一般論では決まりません。

当センターの初回相談は無料です。その場でどちらかをお勧めすることはいたしません。 まず、ご家族の状況を時間をかけてお聞きし、何もしなかった場合にどうなるかをご説明します。そのうえで、選択肢とそれぞれの費用をお示しします。

家族信託の累計組成実績は88件です(2026年8月末現在)。成年後見の受任も継続して行っておりますので、両方の実務を知ったうえでご説明できます。