2026年、家族信託をめぐって動いたこと|奈良の司法書士が整理します

2026年は、家族信託にとって節目の年になりました

このページでは、2025年から2026年にかけて家族信託の実務に影響した出来事を、法務省・裁判所・国税庁などの公式資料に基づいて整理します。

すでに家族信託を組まれた方にも、これから検討される方にも関わる内容です。出典と時点をすべて添えていますので、ご自身でも確認していただけます。

1.民事信託について、初めての最高裁の判断が出ました(2026年6月17日)

何が起きたか

2026年(令和8年)6月17日、最高裁判所第三小法廷が、民事信託に関する初めての判断を示しました(令和6年(許)第30号)。

事案はこうです。

  • 委託者兼受益者のXが、兄のYを受託者として、信託期間30年の信託契約を結んだ
  • 契約に「委託者兼受益者は信託期間中、契約を解除できない」旨の条項があった
  • Xが信託の終了を申し入れたがYが拒否したため、Xが受託者Yの解任を申し立てた

最高裁が示したこと

信託法164条1項は「委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる」と定めています。同条3項は、信託行為に別段の定めがあればそれによる、としています。

最高裁は、次の判断枠組みを示しました。

信託法164条1項の適用を排除する条項が同条3項の別段の定めとして効力を有するには、当該条項が信託の目的の達成のために合理的に必要と認められることを要する

そのうえで、原審(東京高裁 令和6年9月10日決定)を破棄し、審理を差し戻しました。

この判断をどう読むか

「解除できない条項は無効になった」ということではありません。 結論はまだ出ておらず、東京高裁で審理が続いています。

示されたのは判断の枠組みです。「解除を制限する条項は、信託の目的を達成するために合理的に必要と認められる場合にのみ効力を持つ」ということです。

契約書の設計にとっては、重い意味があります。

家族信託の契約書には、受託者の地位を安定させるために解除を制限する条項が置かれることがあります。しかしその必要性を説明できないまま、委託者兼受益者を長期間拘束する条項を置くと、後で効力を否定されるおそれがあります。

当センターでは、契約書に置く条項の一つひとつについて、「なぜこの信託にそれが必要か」をご説明したうえで決めています。 ひな型をそのまま当てはめる作り方はしていません。

出典:最高裁判所 令和8年6月17日 第三小法廷決定(令和6年(許)第30号)/裁判所ウェブサイト(2026年9月3日確認)

2.成年後見制度が抜本改正されました(2026年6月成立)

2026年(令和8年)6月17日、成年後見制度と遺言制度を見直す法律が成立し、6月24日に公布されました(令和8年法律第45号)。

家族信託を検討される方にとって、成年後見制度は必ず比較の対象になります。 主な変更は次の3つです。

変わること 内容
後見・保佐が廃止され、「補助」に一元化 判断能力の程度による3類型をやめ、必要な行為ごとに個別に代理権や同意権を与える形になります(民法7条・9条・11条)
必要がなくなれば終了できる 判断能力が回復していなくても、制度を利用する必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、利用を終了できます(民法12条)
本人の意見が重くなり、交代もしやすくなる 補助人を選ぶ際の考慮要素の冒頭に「本人の意見」を置き、解任事由に「本人の利益のため特に必要があるとき」を追加(民法876条の2・876条の5)

ただし、まだ施行されていません。 施行日は公布から2年6か月を超えない範囲で政令により定められます。2026年9月3日時点で政令は制定されておらず、施行日は未定です。

また、よくある誤解として「期間更新制が導入された」という説明を見かけますが、採用されていません。 検討の過程では議論されましたが、成立した法律は「必要がなくなったら終了できる」という仕組みです。

この改正を踏まえた家族信託との使い分けは、別のページで詳しくご説明しています。
成年後見制度が変わります|家族信託との使い分けはどう変わるのか

出典:法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」(2026年9月3日確認)

3.公正証書がウェブ会議で作れるようになりました(2025年10月1日)

2025年(令和7年)10月1日から、公正証書の作成手続がデジタル化されました(令和5年法律第53号)。

変わったこと 内容
オンラインでの嘱託 作成の申込みをオンラインでできるようになりました
ウェブ会議による作成 公証役場へ行かずに、ウェブ会議で公正証書を作成できます
電子化 原本を電磁的記録で作成・保存し、電子的な正本・謄本の交付を受けられます

家族信託にとっては、実務上とても大きな変化です。

信託契約書は、原則として公正証書で作成すべきとされています(日本弁護士連合会「信託口口座開設等に関するガイドライン」2020年9月10日)。ところが委託者が高齢の場合、公証役場まで出向くことが難しいことがあります。

これまでは公証人に出張してもらうか、代理人を立てるかでした。しかし代理人による嘱託は、信託契約の有効性に疑いを持たれることがあり、金融機関から信託口口座の開設を断られる一因にもなっていました(後述4を参照)。

ウェブ会議が使えるようになったことで、施設に入所中の方や遠方にお住まいの方も、ご本人が直接、公証人とやり取りできるようになりました。

ただし、ウェブ会議を使えるのは指定を受けた公証役場に限られます。 また、公証人が相当と認めることや、他の当事者に異議がないことが要件です。パソコンが必要で、スマートフォン・タブレットでは利用できません。ご相談の際に、使えるかどうかを確認してご案内します。

出典:民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号。2023年6月14日公布、2025年10月1日施行

4.信託口口座をめぐる状況は、まだ整っていません

家族信託で金銭を信託する場合、受託者個人の財産と分けて管理するための専用口座が必要になります。これを「信託口口座」と呼びます。

この口座を開設できる金融機関は、まだ限られています。 これは当センターの実感ではなく、公的な資料に書かれていることです。

資料 記述
内閣府 規制改革推進会議 ワーキング・グループ資料(2025年3月13日) 「民事信託において、実務上開設することが推奨されている『信託口口座』が、どの都道府県でも開設できる状況になっていない
日本弁護士連合会「民事信託業務に関するガイドライン」(2022年12月16日) 信託口口座の開設に応じている金融機関は、まだ少数である」「信託契約書の案文を完成させる前に、金融機関に口座開設の条件を確認しておくことが望ましい
日本司法書士会連合会「民事信託支援業務の執務ガイドライン」(令和6年11月) 信託口口座という言葉には定まった定義が存在しない」「信託口口座の開設に応じてくれる金融機関が存在しない地域」がある

専門家の説明義務が問われた裁判例があります

東京地方裁判所 令和3年9月17日判決は、この点で専門家の責任を認めました。

司法書士が信託契約書の作成と信託口口座の開設支援を受任したものの、契約締結後に開設に応じた金融機関は1行のみで、しかも予定していた信託内融資を前提とした口座ではなかったという事案です。裁判所は、司法書士の不法行為責任を認めました。

司法書士は、委任契約を締結するに先立ち、信義則に基づき、金融機関の信託内融資・信託口口座等に関する対応状況等の情報収集・調査を行った上で、その結果に関する情報を提供するとともに、信託契約を締結しても信託内融資及び信託口口座の開設を受けられないというリスクが存することを説明すべき義務を負っていた

当センターは、この点を最初にご説明します。

  • 信託契約書の案文を確定する前に、金融機関に口座開設の条件を確認します
  • 口座を開設できない可能性があることを、契約前にお伝えします
  • 金融機関によって信託契約書に書ける内容が変わることがあるため、金融機関との調整を先に進めます

「作れます」と申し上げてから作れないことが分かるのでは、お客さまに費用と時間の負担が生じます。

出典:東京地判 令和3年9月17日(金融・商事判例1640号40頁、家庭の法と裁判35号134頁)

5.住所が変わったら、2年以内に登記が必要になりました(2026年4月1日)

2026年(令和8年)4月1日から、不動産の登記名義人の住所・氏名が変わったときの変更登記が義務化されました(不動産登記法76条の5)。

項目 内容
期限 変更があった日から2年以内
過料 正当な理由なく怠ったとき 5万円以下(同法164条2項)
施行前の変更分 令和10年(2028年)3月31日まで

家族信託を組まれた方には、見落としやすい点があります。

信託した不動産の登記名義は、受託者になっています。 ですから、

受託者であるお子さんが引っ越したら、そのお子さんが2年以内に変更登記をする義務を負います。

信託契約を結んで登記を終えた時点で「終わった」と思われがちですが、信託は組んだ後も続きます。 当センターでは、組成後のアフターフォローの中でこうした点もご案内しています。

なお、「検索用情報の申出」(2025年4月21日開始)をしておくと、法務局が住民基本台帳ネットワークで変更を確認し、本人の了解を得たうえで職権により変更登記をしてくれます(費用はかかりません)。国内に住所のある個人が対象で、手続も無料です。

出典:法務省「住所等の変更登記の申請義務化について」(2026年9月3日確認)/不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和7年法務省令第1号)

6.家族信託の普及状況(数字で見る)

「家族信託は流行っているのですか」というご質問をよくいただきます。公式に把握できる数字は、実は限られています。

家族信託は当事者間の契約ですから、その総数を正確に数えることはできません。 手がかりになるのは、公正証書の作成件数です。

民事信託の公正証書
2018年 2,223件
2020年 2,924件
2022年 3,960件
2023年(令和5年) 4,434件

私文書で作成されるものもあるため、内閣府の会議資料は「全体の総数はその2〜3倍(1〜1.5万件)ほどと考えられる」としています。

同じ年の比較を並べると、位置づけが見えてきます。

手続 2023年(令和5年)の件数
公正証書遺言 118,981件
後見開始 26,986件
任意後見契約 16,176件
民事信託(公正証書) 4,434件

内閣府の資料は、こう述べています。

年間1〜1.5万件程度と考えても、認知症・軽度認知障害の高齢者数が1,000万人を上回る中、認知症対策としても期待される民事信託の活用は、後見制度や遺言と比べて進んでいない

つまり、家族信託はまだ広く使われている制度ではありません。 だからこそ、取り扱った経験のある専門家に相談していただくことが大切だと考えています。

当センターの家族信託の累計組成実績は88件です(2026年8月末現在)。

出典:日本公証人連合会の集計(内閣府 規制改革推進会議 デジタル・AIワーキング・グループ 資料1-1/2025年3月13日 掲載)

7.背景にある数字

家族信託が語られる背景には、認知症をめぐる統計があります。よく引用される数字には誤りも多いので、出典を明示して整理します。

項目 数字 出典・時点
認知症の高齢者 471.6万人(高齢者の12.9%) 2025年推計。厚生労働省/九州大学 二宮利治教授研究班(2024年5月8日公表)
2040年の見込み 584.2万人(14.9%) 同上
軽度認知障害(MCI)の高齢者 564.3万人(15.4%) 2025年推計。同上
認知症の高齢者が保有する資産 約255兆円(金融174.9兆円+不動産79.9兆円) 2020年。三井住友信託銀行 調査月報2022年5月号
空き家 900万2千戸(空き家率13.8%、過去最高) 2023年10月1日現在。総務省 令和5年住宅・土地統計調査

ひとつ、正確にお伝えしておきたいことがあります。

「認知症は増える一方」と書かれることが多いのですが、厚生労働省の資料によれば、2012年から2022年にかけて認知症の有病率は15.0%から12.3%へ低下しています。 研究班は理由として、喫煙率の低下や生活習慣病の管理の改善などを挙げています。

正確には、「有病率は下がったが、高齢者の数が増えるため実数は増える」ということです。 不安を煽るための数字ではありません。

ご相談は無料です

制度は動いています。5年前に作った信託契約書が、いまの実務の水準に合っているとは限りません。

当センターでは、これから家族信託を検討される方のご相談はもちろん、すでに組まれた信託の見直しのご相談もお受けしています。他の事務所で作成された契約書についても拝見します。

初回のご相談は無料です。