解決事例3.高齢の父親の認知症対策と遺言の代用として自社株式を信託【民事信託】

3.高齢の父親の認知症対策と遺言の代用として自社株式を信託【民事信託】

状況

  1. 株式会社の社長Aさん(男性、70代)は、会社を経営しており、自社株式を100%所有しています。年齢とともに体力も衰えてきており、そろそろ後継者の長男Bさん(40代)に会社の経営を引き継ぎたいと考えております。
  2. 株式もBさんに譲りたいのですが、一方で株式の評価額が高くて、現時点で生前贈与を行うと多額の贈与税がかかってしまうので、何か良い方法はないかということでご相談に来られました。

司法書士の提案&お手伝い

  1. まず、このまま何もしなかったとすると、もし自社株式を100%保有するAさんが認知症等で判断能力が衰えてしまうと、株主総会が開催できなくなり、代表取締役やその他の役員を選ぶことができなくなってしまうリスクがあることを説明させていただきました。そのような状況になってしまうと、成年後見制度を利用して、成年後見人に議決権を行使してもらうしかなくなりますが、成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所に後見開始の申し立てをしなければならず、成年後見人が会社の経営について判断することができるのかという問題や、誰が成年後見人に選ばれるかどうか分からず、選任された成年後見人が親族の意向に沿って動いてくれるかどうか分からない、第三者の専門職が成年後見人に選ばれるとその報酬が発生するといった制約もあることを説明しました。
  2. Aさんは高齢とはいえ、幸い判断能力はまだ大丈夫なので、元気なうちに委託者兼受益者をAさん、受託者を後継者であるBさんとする信託契約を締結しておけば、仮にBさんの判断能力が衰えていたとしても、Aさんの判断で議決権を行使することができることから、民事信託の活用を提案させていただきました。
  3. 株価が高くて生前贈与を行うと多額の贈与税が発生してしまうという問題についても、委託者=受益者とする自益信託とすることにより信託設定時に課税関係は生じません。議決権の行使は今からBさんにしてもらえるのでAさんが認知症になったとしても会社が回らなくなることも防ぎながら、将来株価が低くなった時点で信託を終了させてBさんに株式を移転させることもできます。また、Aさんの死亡により終了した場合は、帰属権利者としてBさんを指定しておくことで遺言の代用として活用することができ、贈与税ではなく相続税の対象となりますので、相続税の基礎控除を利用することができます。税理士と連携して相続税対策のシミュレーションもさせていただき、ご説明させていただきました。

結果

  1. AさんとBさん2人で事務所にお越しいただき打ち合わせをさせていただいた結果、次の信託スキームで手続きを進めることとなりました。
    委託者 Aさん(社長)
    受託者 Bさん(長男)
    受益者 Aさん(社長)
    信託財産 自社株式すべて
    帰属権利者 Bさん(長男)
  2. AさんとBさんの印鑑証明書、会社の決算書、登記事項証明書等の資料を用意いただきました。
  3. 当事務所で信託契約書の案を作成し、公証役場と事前の打ち合わせ等、信託契約を公正証書で作成する準備をさせていただきました。AさんとBさんにも契約書の最終案を確認いただき内容を確定し、公正証書を作成する日時を決めさせていただきました。
  4. AさんとBさんと公証役場に一緒に行かせていただき、信託契約を公正証書で作成しました。
  5. 株式については、株式の譲渡制限がある場合の承認手続や株主名簿の名義書換等の手続が必要となりますので、そのサポートをさせていただき、業務は終了しました。